structure 展覧会構成

プロローグ

19世紀中葉以前の夕景表現―近代的夕景の“発見”Prologue: Evening scenes until the mid-nineteenth century

17世紀に「風景画」が成立し、自然を描くことへの関心が高まって以来、束の間に変化する夕刻の光を描き出すことは画家たちにとって重要なテーマとなりました。本展は、クロード・ロランやジョゼフ・ヴェルネなど17世紀、18世紀にイタリアやフランスで活躍した風景画家たちの夕景表現から出発し、さらに、18世紀から19世紀にかけて活躍したターナーやコンスタブルなどイギリスの画家たちの夕景表現も紹介します。

西洋編

ジョン・コンスタブル《ハムステッド・ヒースの木立、日没》1821年、静岡県立美術館 ※展示期間9/4-9/9

1

ドラマチックな逆光から包み込む光へSection 1: Evening sunlight from the Romantics to the Impressionists

19世紀のフランスでは、風景画が大きく隆盛します。人の感情を動かす現実の自然現象を捉えようとしたバルビゾン派の画家たちは、強い逆光表現を好んで用い、夕景を描きました。その後、モネやシスレーといった印象派の画家たちが登場すると、光によって変化する色彩に関心が置かれ、景観全体を包み込むような夕刻の光が表現されました。

テオドール・ルソー

テオドール・ルソー《樫のある風景》(部分)制作年不詳、山梨県立美術館

クロード・モネ

クロード・モネ《サン=タドレスの海岸》1864年、栃木県立美術館

テオドール・ルソー

テオドール・ルソー《樫のある風景》(部分)制作年不詳、山梨県立美術館

2

「一日の終わり」の象徴としての夕日Section 2: Sunset and evening images as symbols of the end of the day

バルビゾン派の画家ミレーは、大地で労働する農民たちの姿に関心を向け、生涯のテーマとして描き続けましたが、その中で夕景も多く描いています。日没は、農民や羊飼いたちにとって、一日を終える区切りを意味しました。産業革命が急速に発展し、都市化の進んだ19世紀中頃のフランスにおいて、未だ自然のサイクルに従って生活を営む彼らの姿は、とりわけ郷愁を誘うものであったと考えられます。

クロード・モネ

ジャン=フランソワ・ミレー《夕陽》1867年頃、ひろしま美術館 ※展示期間10/9-11/4

3

夕日とモダニズムSection 3: Modern Sunsets - Light, Color and Form

印象派以降、画家たちは、色彩と形態による造形的な可能性を模索する傾向を強め、次第に写実から解き放たれていきます。光の移り変わりに応じて、形や色彩が様々な表情を見せる夕景は、彼らの制作の契機として、重要な役割を果たしています。

クロード・モネ

クロード・モネ《睡蓮》1907年、和泉市久保惣記念美術館 ※前期展示9/4-10/7

4

「逆光」の移入Section 4: Fontanesi and his Japanese followers in the early Meiji Era

日本への本格的な西洋絵画の技術の移入は、1876(明治9)年、工部美術学校が設立されて以降のことでした。バルビゾン派の流れを汲む画家アントニオ・フォンタネージの指導により、光の効果を捉えた迫真的な絵画技法が日本へと伝えられたのです。夕景は変化する風景空間を描出する題材として取り組まれたと考えられます。中丸精十郎や小山正太郎ら工部美術学校の生徒のみならず、日本洋画の先駆者・高橋由一もフォンタネージの影響を受けた夕景画を残しています。

アントニオ・フォンタネージ

アントニオ・フォンタネージ《沼の落日》1876-78年、三重県立美術館

高橋由一

高橋由一《芝浦夕陽》1877年、金刀比羅宮

5

黄昏の「版画」たち① 江戸~明治Section 5: Twilight in Prints - from the Edo to the Meiji Era

浮世絵に夕景が描かれるのは、19世紀に入り、風景が主題となってからのことで、その代表的な絵師が葛飾北斎と歌川広重です。日本人の細やかな感性と結びついた叙情的な主題が魅力となっています。その後、明治に入ると小林清親が浮世絵に新風を吹き込み、西洋絵画の陰影法や明暗法を応用した「光線画」で夕景や夜景を描き出しました。

小林清親

小林清親《江戸橋夕暮富士》1879年 横浜美術館 加藤栄一氏寄贈
※展示期間 9/4-10/7

6

「夕暮」「晩帰」主題の流行Section 6: The Meiji vogue for evening scenes

パリで学んだ黒田清輝の帰国以降、純度の高い色彩で光を表現する技法が伝えられました。陰影を紫で描くなど、印象派風の表現は日本の洋画壇の主流となっていきます。夕景表現においても、あたり一面に拡散する柔らかい光の描写が試みられるようになり、藤島武二や和田英作、青木繁らによって日本版「一日の終わり」といえる「夕暮」「晩帰」を主題とした作品が数多く生み出されました。

和田英作

和田英作《渡頭の夕暮》1897年、東京藝術大学

7

「自然主義的」夕景Section 7: Naturalistic and realistic - late Meiji Era

明治30〜40年代には自然に即してありのままに対象を描こうとする態度、いわゆる自然主義的な傾向が強まり、薄明に対する鋭敏な感覚が感じられる写実的な表現が多く生み出されました。大下藤次郎に代表される水彩画の流行もまさにこの頃のことです。同じ頃、日本画の分野では横山大観や菱田春草らが「朦朧体」を実践し、その中で夕景も主要なテーマとなりました。

菱田春草

菱田春草《暮色》1901年、京都国立博物館 ※展示期間9/4-9/16

8

「表現主義的」夕景Section 8: Expressionistic and personal - Taisho Era

明治末・大正期に入ると、画家たちはそれぞれの個性を重視した、「表現主義的」な作品を描くようになります。彼らが描いた夕日・夕景からは、当時雑誌『白樺』などを通じて紹介され始めたゴッホをはじめとするポスト印象派の画家たちの影響や、大正期の文芸思潮に通底する「生命主義」の影響を窺うことが出来ます。

萬鉄五郎

萬鉄五郎《太陽と麦畑》1913年頃、東京国立近代美術館

9

黄昏の「版画」たち② 大正~昭和Section 9: Twilight in Prints - Taisho to Showa

大正から昭和にかけて多様化する版画表現においても特徴的な夕景表現が生まれました。ここではおもに、当時の版画界の二大潮流である「新版画」(橋口五葉、川瀬巴水、伊東深水、吉田博など)と「創作版画」(田中恭吉、恩地孝四郎、織田一磨、廣島晃甫など)の流れとともにその表現を紹介します。

川瀬巴水

川瀬巴水《東京十二題 木場の夕暮》1920年、島根県立美術館 ※前期展示9/4-10/7

エピローグ

20世紀中葉以降—原風景としての夕景Epilogue: Mid-twentieth century onward - evening scenes as a source of inspiration

20世紀も半ばを過ぎると、洋の東西を問わず、表現手法の多様化が進み、各作家の個性的な表現が追求されるようになります。エピローグでは、このような時代の中でとりわけ夕景表現にこだわった5人の作家(ジョルジュ・ルオー、佐藤哲三、小野竹喬、中村岳陵、清宮質文)を紹介いたします。

ジョルジュ・ルオー

ジョルジュ・ルオー《避難する人たち(エクソドゥス)》1948年、パナソニック汐留美術館

  • 黄昏の絵画たち 見どころはコチラ
  • 黄昏の絵画たち 出品リストはコチラ